北海道新聞(2014・3・27)に、東日本大地震の津波被災地岩手県野田村の山ブドウで醸造したワインの販売記事が載っている。醸造・販売を行うのは「ばんけい峠のワイナリー」で、社長の田村修二氏の写真入りの記事である。田村氏は顔見知りなので、販売日である3月下旬の日曜日に同ワイナリーに出向いて、田村氏のパノラマ写真取材となる。
田村氏は札幌市内に住み、ワイナリーには車で通っている。氏の到着少し前にワイナリーの近くに車を止め、夫人と一緒に車でやって来た田村氏を見つける。ワイナリーの開店準備の間、まだ雪に埋もれているブドウ畑とワイナリーの建物のパノラマ写真を撮る。
ブドウ畑の見えるテラスで田村氏のパノラマ写真を撮らせてもらう。このテラスは昨年(2013年)道新文化センターの受講生らと訪れ、ワインの試飲をさせてもらったところである。例年の雪ならテラスのビニル屋根の雪が落ちるのに、昨年の大雪では屋根の支柱が折れてしまったので、屋根のこう配をもっと急にして雪を落とす必要があると話されていた。
田村氏は1940年東京生まれである。田園調布高校から東大に進学し、工学部応用化学科を卒業後、通商産業省(通産省、現経済産業省)に勤めた。通産省は、大学の専攻に関連して石油化学産業育成の仕事ができると考えたことによるそうで、国内に石油コンビナートを造るに際し、海外の先進技術導入するためアメリカに出張して技術移転の仕事をされる。
札幌と縁がつながったのが1984年で、札幌通産局の商工部長として赴任された。札幌で2年間勤務後本省に戻り、その後環境省勤務となりここで定年を迎える。定年後は通産省時代に経済開発機構(OECD)のパリ本部で仕事をしていた経験も生かして、海外技術交流に関わるコンサルタントに携わり、その後北大の客員教授にも招聘され、札幌に生活の場を移している。
札幌では持論の地場の資源を活用した企業育成の研究拠点として、盤渓峠に土地と研究棟を確保し、フィールドテクノロジー研究室を開設している。北大時代に江部乙のリンゴ農家からシードルが作れないか相談され、大学で実験までしたが醸造の許可が得られなかった。ところがこの研究室の横に買い求めた土地がたまたまブトウ畑で、このブトウを使ったワイン醸造を実現でき、これが現在のワイナリーに発展する。ある意味偶然で、札幌の第1号のワイナリーが誕生したことになる。
ワインを商品にするワイナリーにはいくつかのバリアを越えなければならない。ワイナリーの許認可権は国税庁にあり、酒税を課す関係から最低6000リットル、720ミリリットルのビン詰め換算で8000本が最低生産量として要求される。田村氏は事業に先立って、この数量のワインが売れ残ったら、夫婦で1日何本飲んだらよいか試算してからワイナリーを始めた、と冗談半分で話されていた。
ワイナリーは現在の場所に2001年にオープンし、今ではバスの停留所も峠のワイナリーの名前が付けられている。ワインの他に江部乙産のリンゴによるリンゴ酒(シードル)も商品化している。酵母菌を殺菌せずに生かしたままのワインは飲み頃を調節して楽しめる反面、長期保存には向かない難点もある。ワイン通が薀蓄を語ることのできるワインなのだが、ワインにはさほどの知識を持ち合わせていない筆者は、簡単な質問程度しか頭に浮かばない。
写真撮影の合間に奥様手造りのハスカップの実を挟んだケーキが出され、これが美味しかった。このケーキはこれだけが売られているものではなく、テラスで客がコーヒーを注文した時に出されるものである。訪れた3月の下旬はワイナリー横のブドウ畑は未だ雪で埋まっていたけれど、もう少し経つとブドウ畑も新緑につつまれ、パノラマ写真を撮ったテラスから盤渓の自然景観が楽しめる。その眺めの中でのワインやコーヒーとこのケーキは、隠れ家の“峠の茶屋”の極上の一品である。
(ばんけい峠のワイナリーのテラスでの田村氏、2014・3・30)
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