角田道彦氏の支社長室に通された時の強烈な第一印象はその眺めの良さであった。角田氏が勤める三井物産北海道支社は日本生命ビルの11Fにある。支社長室はこのビルの北西の角にあり、西側の窓の下には北海道庁、さらに視線を上げると手稲山から三角山、藻岩山と札幌の都心部から眺められる山並みが続く。北側の窓からは近くにあるJRタワーが目に飛び込んでくる。2年前に、シンガポールから札幌に転勤になった時、オフィスから眺められるこの景観を見て社員が英気を養うようにと、オフィスの西側のブラインドは1日に1度は全部上げるように支社長命を出したというのは頷ける。
暑いシンガポールから雪の舞う札幌への転勤は寒さが堪えるのでは、と尋ねると、雪は好きだとの答えが返ってくる。幼稚園の頃札幌に住んでいた経験があり、横浜国大時代にスキー部で長野辺りに行っていたので、近場にスキー場のある札幌は恰好の勤務地のようである。因みに出身地を聞くと、新聞社に勤めていた父親の転勤で全国各地を動いたので、出身地と聞かれると答えに困るとのことである。強いていえば、最も年月が長かった東京かな、とのことである。
主な仕事はプラント関係で、海外勤務も多く、カナダ、台湾、マレーシア、シンガポールの支社で働いた経験の持ち主である。カナダのバンクーバー市の駐在の話では、筆者もケベック市のラバル大学に留学していたことがあるので、向こうの生活の感じはつかめる。部屋の壁にはサハリン全図が張ってあり、聞いてみると同社はサハリンの液化天然ガス(LNG)の開発と輸入を行っていて、そのパイプラインが地図に書き込まれている。
同社は百年先のことを考え、北海道に森を育てているのは初めて聞く話である。森を育てることは林道の整備も同社が行うことになる。商社の扱うものに木材はあるだろうけれど、国産材を今すぐ商売の対象にする、といった話ではない。大きな会社になると、長期の視点で、国土保全といった点からのプロジェクトにも関係するようだ。
文化面でもそのような試みが行われているようである。部屋の壁にはアイヌ・コタンの写真がある。その写真はある仕掛けの合成写真なのだが、プロジェクトは水面下で検討中であり、社内で正式に承認されていないとのことなのでここに書く訳にはゆかない。しかし、技術者としての筆者の目から見て、そんなことが可能なのだろうか、と思ってしまう。もし、それが実現されるなら、アイヌの象徴空間創造に大いにインパクトのあるプロジェクトだと思った。
蛇足ながら「角田」は「つのだ」、「かどた」、「すみた」と発音でき、本人を目の前にしてどの発音だったと迷う。実際会話中に間違った発音をしてしまったが、それは度々起こることなのだろな、と思った。
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