人は生きるための糧を得るため職業人となる。職業人は社会人と言い換えてもよい。職業人あるいは社会人は他人に自分の仕事を話す時、関わっている具体的対象を主に語るか、組織等における役職を前面に出してくるかに大別できそうである。
研究者は何を研究しているか、営業マンなら何を扱っているのかがポイントで、研究者とか営業マンとかだけ言われても雲をつかむような話である。何々のプロと表現される人は、その何々についての知識とそれを基にした創造性や実行力があると他からは期待される。
これに対して組織の長とか経営者は、その立場が先に来て、その組織や会社の内容が後追いでも、その人の立場は理解できる。一般論で、役所では若い時には専門性が要求され、組織の上の方に行くと組織を維持する方に力点が置かれて人が当てはめられる。当てはめられた人はその役どころをこなしていく。
町田隆敏氏は長いこと札幌市の経済産業分野で仕事をされて来られたので、その方面での人脈がある。特に札幌市が1970年代に地元の情報産業育成に乗り出した頃、市と産業界や大学との接点となる場におられ、経済産業畑の役人のイメージを強く引きずっている。
筆者が北海道のIT産業の育成に功があったとして、2013年度の北海道功労賞を高橋はるみ北海道知事より贈呈された。その記念誌発行に当たって、筆者のことを紹介する執筆陣のお一人として町田氏に加わってもらった。執筆内容についての打ち合わせで伺った時は、町田氏は札幌市の教育行政のトップに居られた。正直なところ、経済・産業と教育行政がスムーズにつながらない。しかし、組織の長という点では違和感がなかった。
市の教育行政は教育委員長をトップにした教育委員会があり、それを支えて教育行政組織が存在し、その長が教育長となる。教育委員長と教育長の役割分担など、一般市民にはよくわからない。教育委員会は市庁舎のどこかにあるのだろうと漠然と思っていると、民間の企業の名前がつき、多分その企業が所有するビルの中にあって、意外な感じである。
札幌市教育委員会の目立つ看板もないビル内で町田教育長とお会いする。長年にわたっての顔見知りで、やはり教育よりは経済・産業の顔を見てしまう。多分近年の教育における問題への対応に頭を使われているのだろうけれど、筆者の方は情報技術に関連した研究者と教育者の顔で話をする。
筆者の紹介は過去の業績ではなく、退職後始めた「爪句」やパノラマ写真に関連して、生涯学習の観点から紹介してみたい、との町田氏のお話である。教育行政の目配りは生涯教育にも注がれているのかと、人=f(立場)(人の評価の関数値は立場という変数によって決まる)という方程式が頭に浮かぶ。
教育長室を見るのは初めてなので、執務状況が伝わるようなパノラマ写真を撮る。でも、考えてみると、筆者も今やパノラマ写真家を自称していることもあって、死ぬまで何かの対象一筋の研究を続けるという筋金入りの研究者でもなく、昔の筆者を知っている人は現在の筆者を見て違和感を覚えるかもしれない。
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