くすみ書房店主の久住邦晴氏のインタビューには下心があった。「パノラマ写真で巡る北海道の駅」という2015年のカレンダーを初めて制作し、その店頭販売の書店として同店にお願いする目的も兼ねて、地下鉄大谷地駅の商業施設キャポ大谷地に入居している同店を訪ねる。
くすみ書房は以前西区役所の近くにあった。その頃からマスコミに取り上げられる同店の話題は耳にしていた。地下鉄琴似駅から地下鉄が延伸して、客の流れが激変したのが引き金となり、一時は閉店も考えた経緯があり、現在の場所に書店を移している。実際にくすみ書房の店内を見てから店主久住氏のお話を伺って、久住氏のアイディアマンぶりを確かめることになった。
売れない本を逆手にとって「なぜだ!売れない文庫フェア」という企画で、売れない本を売ってしまう。この本を読みなさい、などと大人からおせっかいが入れば、中学生の年頃は返ってその本を敬遠したくなるところを、堂々と「中学生はこれを読め!」のコーナーを書店内に設ける。高校生、小学生にも同じおせっかい振りである。客を、本を買う側から売る側への思考回路につなぎ替え、客が推薦する本の売り場を作ろうとする。
久住氏がアイディアマンにならざるを得ない書店を取り巻く状況がある。本はネットで買える時代で、わざわざ本屋に足を運ばなくてもよくなってきている。それ以上に、活字離れと言われ、本そのものが読まれなくなってきている。今までの本代はネット代に消える。さあ本屋はどうするか。こうなると書店一筋40年の経験を基に久住氏がアイディアを絞り出さざるを得ないのは必然の帰結かもしれない。
久住氏は1951年に札幌に生まれている。当初琴似で紙の店を営んで、後に本屋になる家が実家である。札幌西高から立教大学経済学部に進学し、卒業後札幌に戻りそのまま家業を継いでいる。書店を取り巻く環境は前述のインターネットの発展で激変してきている。地方の町から書店は姿を消し、札幌のような大都会では書店の大規模店化が進行している。中小規模の書店は、本を売るだけではネットと大規模店に呑み込まれてしまう。
商品として見た場合の本は、門外漢から見ても無駄が多い。毎月多数の新刊書が出て、書店に並べられる。しかし売れなければ数か月で姿を消していく。久住氏に返本率を訪ねたところ平均30~40%ではなかろうか、とのことで、当然返本の経費は書店持ちとなる。返品のきかぬ食料品などと比べると、流通的観点から無駄の大きな商品である。
ただ、本が食料品と異なる点は販売量が必ずしも人口に比例しない点がある。食料品は一人ひとりの食べる量が決まっていて、消費の総量はおおむね人口に比例する。この点知識欲といったものは、個人でどこまでも伸ばせる。逆に本を読まなくても生活はできる。これは本の消費が必ずしも人口に比例しないことを意味する。
こうなると本を単なる商品として売るだけでなく、本を素材にしたイベントと組み合わせるアイディアが出てくる。店内での本の朗読や講演もそれらのアイディアの一つだろう。久住氏の名刺の裏には「ソクラテスのカフェ」や「くすみ英会話スクール」が印刷されていて、書店との連動のビジネスのようである。
さらに、本を読みたくなる環境を作り、読書の習慣づけをすることが、本の売り上げに結びつく。久住氏が小学生や中学生に「この本を読め」とおせっかいを焼くのは長い目で見て若い世代と共に書店が生き延びていく戦略でもある。
インタビューの合間に久住氏が現在支援を手掛けているプロジェクトが話題になる。書店の無い日高の浦河町に書店を復活させるプロジェクトである。浦河町で地域おこし協力隊をしている武藤拓也氏と協力して、六畳一間に本を並べることから始める「ロクジーショボウー(六畳書房)」である。今年(2014年)の11月からオープンの予定であると聞く。高校まで浦河町に住んでいた筆者は、この「奇跡の本屋」になるかもしれないプロジェクトに少しでも協力しようと、冒頭に書いたカレンダーを浦河町で売り、売上金の一部をこのプロジェクトに寄付しようと考えている。(2014・10・7)
(くすみ書房売り場での久住氏)
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