HPFhito84・ベロタクシーを運行させる「エコ・モビリティ サッポロ」代表栗田敬子さん

 パノラマ写真風土記の人物編の取材を続けていると、女性パワー、それも主婦の新しいものへの挑戦が目立つと感じる。札幌の街角で時折目につくベロタクシー(VeloTaxi、Velo=ラテン語で自転車)の運行を行っている運営組織代表者が女性であると知って、意表を突かれた。その運営組織のNPO法人「エコ・モビリティ サッポロ」の代表が栗田敬子さんで、栗田さんがどんな経緯でこの事業を始めたのか取材に出向く。
 三輪自転車とはいえ客を運ぶタクシー業であり、営業終了後は車庫に駐輪させておく。車庫は札幌卸センター1号館にあり、事務所もそこにある。朝9時半、仕事に向かうベロタクシーのドライバーたちとミーティングがあるので、その前に栗田さんのパノラマ写真撮影とインタビューを行う。9時前に出勤してきた栗田さんは(主婦+キャリアウーマン)/2といった、感じの良い方である。
 栗田さんは1964年の札幌生まれである。静修短期大学(現札幌国際大学)に進学する。専攻は大多数の学生が専攻する秘書科、幼児教育学科等ではなく、ごく少数が選ぶ心理学科だったそうである。大方の人がやることから距離を置くやり方のようである。
 心理学がその後役に立ったか聞いてみる。内心役に立たなかったとの答えが返ってくるかと思ったら、役に立ったとのことである。大学卒業後住宅メーカーの営業に就き、客にセールスを行う時、心理学で学んだことが生きたそうである。この営業の仕事は2年間ほどで、その後人材派遣業のコンサルタントなどを経て、主婦業に転職である。
 主婦になり立ての頃の28歳の年に、夫君と一緒にJICA(国際協力機構)の仕事で2年間ケニアに滞在したのが、現在の環境問題に取り組む原点になっている。自然と野生を想像して同国を訪れると、首都のナイロビは近代的なビルが立ち並ぶ。その一方でスラム街が広がる。近代文明の産物のプラスチックは土に還らず、消えないゴミとなって地面に散乱する。それを目の当たりにして環境問題が帰国後のメインテーマとなる。
 環境問題のサークルを立ち上げ、天ぷら油の廃油から石鹸を作ること、エコバックの普及、コンポスト利用の生ごみ処理等々に取り組む。CO2排出が北海道では全国平均の1.3倍であることを知り、少しでも排出削減につながる交通手段として、ドイツが発祥の自転車タクシーに目をつける。
 普通のビジネス感覚では、積雪で約半年は営業ができない札幌で自転車タクシーを導入するのは、最初から問題外で処理されるだろう。そこが主婦の底力なのか、実現してしまう。ベロタクシーを営業車として走らせるための組織を2007年に立ち上げ、2008年には前記NPO法人の認可を取得し、同年
から営業を開始している。
 日本での需要が少ないため国産メーカの車体が手に入らず、輸入する車体は1台170万円する。現在は5台保有して営業を行っている。年間(約半年)の利用客は約8000人で、利用客は観光客を想定して始めた。しかし、現在の利用客の半数は札幌市民で、これはうれしい誤算となった。さらに最近は介護で利用されるケースも目立ってきていて、高齢者向きに、かつての生活した場をたどるコースを設定し、認知症予防にも役立てるメニュー等を用意している。
 このようなメニューでは、ドライバーは体力の他にコミュニケーション能力も要求される。雪が無く、寒さもまあまあな4月末から10月末までがドライバーとしての仕事の期間で、残りの半年は別の仕事をする必要がある。こうなるとドライバーとして仕事に就ける人に制約が加わり、経験を積んだドライバーが育っていかなければ、新しいメニューの利用が拡大しないだろう。事業展開の将来的課題でもある。
 営業を軌道に乗せてここまでくるには大変なこともあったようである。ある意味車の流れを悪くする新種の交通手段の登場に対する車の運転者からのクレームなどもある。それに対処する栗田さんは、昔取った杵柄の心理学を活用しているのかどうか、そこら辺を聞きそびれてしまった。


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(エコ・モビリティ サッポロのオフィスでの栗田敬子さん 2014・7・15)

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