ススキノの中心南6条西5丁目に塀を巡らせた大邸宅がある。門には「愚象庵」の表札が掛かっている。その家の現当主が遠藤興産社長の遠藤隆三氏である。同社の初代は隆三氏の父の象三氏で、名前の「象」を採って表札にしたそうだが、意味や謂れはよくわからないと隆三氏の言である。親子の名前に「三」がついているけれど、遠藤家の命名の流儀らしく、隆三氏は長男である。
この屋敷は外側から内の様子がわからないので、通りすがり人は色々推測するようである。以前、道新文化センターの都市秘境巡り講座で、参加者と共に屋敷の内を見学させてもらったことがある。1919(大正8)年に完成したと伝えられている家屋は、北海道の住宅には見られない造りがあり、見学者には都市の中の秘境として記憶に残ったはずである。
この「愚象庵」内で隆三氏のパノラマ写真を撮り、インタビューをする。隆三氏は1976年にこの家で生まれている。北海学園大学法学部に進み、卒業後不動産の仲介業の三井リハウスに4年間勤め、遠藤興産に入社する。遠藤家は木材、ゴムなどを扱う仕事から象三氏の時に不動産業の現会社を興している。隆三氏が同社の社長に就任したのは、東日本大震災の起こった2011年で、当時35歳の若さであった。
遠藤興産の本社は道銀ビルの9Fにあり、隆三氏はこの自宅から毎日本社に通う。会社の方は社員が10名前後、パートも同数程度居る。若くて社長に就任して大変だろうと推測してみるけれど、本人の口から大変そうな話は出てこない。それよりも、このままの人口減少が続けば、不動産業を始め北海道の経済に与える未来が話題になる。しかし、深刻な未来をそれほど気にする様子でもなく、楽天的な性格のようでもある。
仕事以外に話題を向けると、趣味の範囲が広い。スポーツが好きなようで、大学時代はラクビーとスキーをやっていた。大学生以前には水泳、剣道を、社会人になってからはサーフィンやスノウボードをやっている。サーフィンは、夏は苫小牧の海岸、秋には留萌近辺の海に行くそうである。自宅庭にサーフィンのスーツが干してあり、頻繁に出かけている様子である。
全くの体育会系かと思っていると、オペラが好きで大学時代にはミュージカルにも出演しているというから、体育会系でも毛色が変わっている。現在は合唱団に加わっていて、札響の合唱団や男性合唱団「ススキーノ」のメンバーでもある。それにしても仕事と掛け持ちでこれだけのことをするのは若さのなせる業である。趣味に打ち込む経済人が多くなれば、札幌の経済や産業の厚みが増すと感じた。(2014・7・1)
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