北大祭で模擬店の並ぶ構内のメインストリートを歩いていると筆者の名前を呼ぶ声が耳に入る。見ると江口彰氏が模擬店の前で客の呼び込みを行っている。客に出しているものはスープカレーである。以前、社会人入学で北大の大学院生となったのは耳にしていたけれど、もう卒業しているはずで、大学祭に関わっているのは何故かと聞いてみる。
模擬店は、現在江口氏が責任者となって活動を行っている「カタリバ北海道」が出店している。この団体に関係する大学生が居ることから大学祭に参加しているようだ。模擬店の利益はこの団体に寄付すると言っているけれど、模擬店は黒字になるものだろうか。
江口氏の現在の活動にはあまり詳しくないけれど、江口氏の顔を見ると最初の出会いとなる「三浦・青木賞」が頭に浮かぶ。札幌のIT企業のまとめ役の立場にあった三浦幸一氏が2000年の3月に亡くなって、三浦氏の思いを生かそうと前記賞が新しく設けられ、同年11月には第一回目の選考会と授賞式が行われた。江口氏は翌年の第二回目で学生の部門の特別賞に選ばれている。江口氏はこの時旭川大学経済学部の学生であった。
江口氏は1975年旭川市生まれである。三浦・青木賞を受賞したことも契機となり、旭川大学を卒業後「コミューナルネット」を設立する。事業内容は国際交流事業で、国際的な人的交流を手助けすることを目的にしていた。しかし、イラン戦争やSARSの流行で国際交流が停滞し、加えて経験や資金不足で会社経営をストップする。
新たな活動として「北海道塾」を始め、2006年には北大の教育学部修士課程に入学して勉強のし直しとなる。北大では「北大映画館プロジェクト」で日本初の学内映画館実現を目指した活動を行っている。短編映画「銀杏の樹の下で」制作に関わったりもした。
北大の大学院卒業後はNPOカタリバ(東京)と出合い、その北海道版の普及に努めている。「カタリバ」とは文字通り「語り場」で、高校生を対象とした対話型のワークショップを柱にしている。人生での動機付けの学習プログラムを教育改革の一助にしようとしている。活動を続けるためビジネスの形態も模索していて、オフィスは札幌市の施設である「Lプラザ」内にある。
学生達と一緒に大学祭の模擬店に居る江口氏は、留年数の多い学生かと錯覚するけれど、もう40 代が目の前である。もらった名刺には特定非営利活動法人「いきたす」代表理事の肩書がある。「いきたす」とはアイヌ語の「iki(行動)」と「as(成長)」を組み合わせ、“北”の音を取り込んだ造語であると、カタリバ北海道のHPに説明が載っている。活動の場をまた一新しようとしているようである。プロジェクトを途切れなく起こしていくことが、三浦・青木賞で評価された江口氏の持ち味のようで、その持ち味は模擬店のスープカレーにも反映されているのだろう。
(2014・6・6 北大祭での江口彰氏)
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